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福井地方裁判所 昭和33年(行)1号 判決 1958年10月31日

原告 川端茂之

被告 丸岡町農業委員会

主文

本件訴訟を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、高椋村農業委員会(被告の前身)が昭和二十八年二月二十日原告所有に係る別紙目録記載の(イ)の土地と訴外岡松捨吉の所有に係る同(ロ)、(ハ)の各土地について為した農地交換分合計画は無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、

(一)  別紙目録記載の(イ)の土地は原告の所有、同(ロ)、(ハ)の各土地は訴外岡松捨吉の所有であつた。

(二)  ところが、被告の前身である高椋村農業委員会は昭和二十八年二月二十日土地改良法に従い右(イ)の土地を原告から訴外中瀬登に、同(ロ)、(ハ)の各土地を訴外岡本捨吉から原告に各その所有権を移転すると云う農地所有権の交換分合計画(以下本件計画と云う)を定め、爾後所定の手続を経て右交換分合は終了し、右(イ)の土地の所有権は原告から訴外中瀬登に、右(ロ)、(ハ)の各土地の所有権は訴外岡松捨吉から原告にそれぞれ移転した。

(三)  けれども、右(イ)、(ロ)、(ハ)の各土地はいずれも公簿上畑となつているが、事実上は右(イ)の土地はすでに昭和十九年頃から、右(ロ)、(ハ)の各土地はすでに昭和十五年頃から、いずれも宅地化せられ、本件計画が定められた当時においてはその現況は明白な宅地であつた。

(四)  ところでおよそ現況が宅地である土地については交換分合計画を定めることはできないのであるが、高椋村農業委員会は故意又は過失によつて右各土地を農地と認定した上、本件計画を定めたのであるから、この点で本件計画は明白にして且つ重大な瑕疵があり、それ故に無効である。よつて原告は被告に対し本件計画の無効であることの確認を求める。

と述べ、被告が本案について述べる(一)の交換契約成立の事実及び同(二)の主張を各否認した。

(立証省略)

被告訴訟代理人は、

本案前の抗弁として、

(一)  原告は土地改良法第九八条第一項第三項に定める縦覧期間であつた昭和二十八年二月五日から同年四月五日までの間に所定の異議の申立を為さなかつたから、この異議手続を経ずに提起せられた本件訴訟は不適法であつて却下を免れない。

(二)  仮に右の理由が認められないとしても、本件計画とは別個に、訴外中瀬登は原告と交換契約を結び、すでに昭和十六年三月から前記(イ)の土地を所有の意思を以つて平穏、公然、善意且つ無過失に占有を始めたのであるから、本件計画の効力如何に拘らず民法第一六二条第二項に定める時効により昭和二十六年三月には右土地の所有権を取得し原告はその所有権を失つたものである。それ故に原告はいわゆる確認を求める法律上の利益を有しないから本件訴訟は不適法として却下を免れない。

と述べ、ついで、

本案について、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張の(一)、(二)の各事実は認める、同(三)の事実中前記(イ)の土地の現況が昭和十八年五月頃から宅地となつたこと及び同(ロ)、(ハ)の各土地の現況が昭和十六年三月頃から宅地となつたことは認める、同(四)の事実につき高椋村農業委員会は原告の主張するように故意又は過失に基いて本件計画を定めたものではない。すなわち、

(一)  関係者間においては、すでに、昭和十六年三月頃原告所有の前記(イ)の土地の所有権を訴外岡松捨吉に、同人所有の前記(ロ)、(ハ)の各土地の所有権を原告に移転すると云う交換契約ができ、右契約に基いて高椋東信用購買販売利用組合が原告の承諾を得て原告の所有となつた右(ロ)、(ハ)の各土地上に倉庫を建て、原告に対して賃料として毎月坪当り米五合を支払い、原告はこれを受領していて、他方訴外中瀬登はその所有となつた前記(イ)の土地上に昭和十八年五月頃瓦の製造工場を建て今日に及んだのであつて、本件計画は事実上右のとおり実行せられていた交換分合を事務的に整理する為めに行つたものに過ぎず且つ原告は当時右交換を承諾していたものである。

(二)  仮に本件計画が定められた当時前記(イ)、(ロ)、(ハ)の各土地が非農地であつたとしても、土地改良法第一一一条による農業用施設に関する権利の交換分合として本件計画は有効である。

と述べた。

(立証省略)

理由

先ず被告の本案前の抗弁について考えるに、行政処分の無効確認を求める訴訟には、訴願前措置又は出訴期間に関する規定の適用がないから、被告の(一)の主張は失当であり、被告が同(二)において述べる確認の利益の有無は訴訟の成立要件に関するものではなく、権利保護要件に関するものと解せられるから、右(二)の主張も亦排斥を免れない。

けれども成立に争のない甲第一号証の一、二、三、乙第三号証の一、二、三、証人中瀬登、岡松捨吉の各証言を本件弁論の全趣旨に照して考えると、被告の前身である高椋村農業委員会が昭和二十八年二月二十日定めたと云う農地所有権交換分合計画の内容は、原告所有の別紙目録記載の(イ)の土地の所有権を訴外中瀬登に、同中瀬登所有の同(ニ)、(ホ)の各土地及び訴外白崎玉吉所有の同(ト)の土地の各所有権を訴外岡松捨吉に、同岡松捨吉所有の同(ロ)、(ハ)の各土地の所有権を原告にそれぞれ移転し、白崎玉吉に対しては現金三万円の外中瀬登所有の同(ヘ)の土地の所有権を移転するを定めたものであることが判る。

してみると、右交換分合計画において対象とせられた土地は、前示(イ)、(ロ)、(ハ)の三筆の土地ばかりではなく、同(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)の各土地も包含せられていることが明白で、以上合計七筆の土地について前記農地所有権交換分合計画を定めると云う一個の行政処分を為したものと認められる。

ところで原告の請求は、前示(イ)、(ロ)、(ハ)の三筆の土地についての交換分合のみの無効確認を求めるものであるが、およそ一個の行政処分である前記交換分合計画において対象とせられた土地の内の一部の土地についてのみ同計画の無効を主張することは許されないものと解せられる。けだし、原告が主張しない前示(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)の各土地の交換分合後の権利関係をその侭にして仮に前示(イ)、(ロ)、(ハ)の各土地についてのみ無効確認判決が確定するときは、右(イ)の土地の所有権は原告に、同(ロ)、(ハ)の各土地の所有権は岡松捨吉にそれぞれ回復することになるけれども、同時に、岡松捨吉は依然として前示(ニ)、(ホ)、(ト)の各土地の所有権をも保持することとなる一点からみても明かなとおり不合理な結果を生ずることとなるからである。

よつて本件訴訟は訴訟物を誤つて提起した違法があるものと云えるから、これを却下することとし、訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 神谷敏夫 市原忠厚 川村フク子)

(別紙目録省略)

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